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概要

20150218-0005-001

石橋構築・修復技術者養成事業への期待 73され、また貴重な文化遺産として親しまれてきた。中でも、橋長49.5㍍の西田橋は1953(昭和28)年に県指定文化財となった。 1993年8月6日の集中豪雨「平成5年8月6日豪雨」(8.6水害)により五石橋のうち新上橋と武之橋の2橋のアーチ部が流失してしまったが、玉江橋、西田橋、高麗橋の3橋はどうにか損壊を免れた。ここで被災した2橋と残りの3橋をどうするかが大きな問題となったのである。鹿児島県では、緊急かつ抜本的な治水対策を講じて再度の災害防止を図ることが求められたため、国の「河川激甚災害対策特別緊急事業」を導入して、河床掘削を中心とした河道改修を実施することにした。残った3橋については、現地に残したままで治水対策ができないかという観点からあらゆる検討を行ったが、3橋は径間が狭く根入*1が浅いため、残したままでは将来、流失の恐れがあるなどの理由から、多くの反対意見があったにもかかわらず、移設保存することとした。そして、鹿児島県が「西田橋解体復元調査委員会」、鹿児島市が「高麗橋と玉江橋の解体復元調査委員会」を設置し、3橋は鹿児島市内の石橋記念公園に移設保存されたのである。 私は西田橋解体復元調査委員会の委員として関わったが、当時はまだ石橋に関する研究は全く実施しておらず、土木遺産関係と構造関係の立場からの出席であった。しかし、5つの石橋に関わる歴史的・治水的な問題ついて調べると、上述した8.6水害による被災時点であらためて検討するような問題ではなかったのである。石工・岩永三五郎が構築した5つの壮大な石橋に関して、西田橋を筆頭にその文化財的な価値は明らかにされているにもかかわらず、貴重な文化財として保存と活用の視点からの治水対策は十分になされなかった。大きな水害が発生するたびに石橋の存続が議論されるも、保存か撤去かの議論ばかりで、対策の検討が進まなかったと思われる。 石橋周辺の宅地化が進んだため、ますます石橋の保存を考慮した治水対策は対策費用がかさみ、工事期間が長くなるとみられたため、実施が困難になったようである。保存と活用を前提にするならば、早期に鹿児島県と市が一緒に知恵を出し合い、本腰を入れて治水対策に取り組めば保存可能な対策は十分取れたと思われる。しかし、現実には解決困難な問題が多々あり、結局、石橋の崩壊・喪失の状態に至って初めて真剣に取り組んだような印象が拭えない。 最近も大雨による大きな洪水発生により、洪水に弱い石橋は直撃を受けて損壊し、洪水に強い石橋は流木等が詰まることにより堰せきのような働きをして、付近の道路の冠水や宅地への浸水などの問題を発生させている。そのため洪水のたび、石橋を撤去するか存置するかの問題が起こるのである。住民の安全と文化財保護の狭間で、両者が納得するような解答を導くことができるのかが、われわれに問われている大きな問題であり、今後もこの問題に真しんし摯に取り組んでいく必要がある。石橋の耐荷力や耐久性を明らかにする研究の概要 石造アーチを構成する石材間の開きや石材の割れ、あるいは抜け落ちなどの各種損傷を有する石橋の*1 根入とは、建築・土木構造物などの基礎の土への埋め込みの深さ。