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概要

20150218-0005-001

82 第4 章 石橋の復活を目指して本物の技術を次世代につなぐ石橋構築・修復技術者養成事業実行委員(世話役)株式会社尾上建設 代表取締役 尾上 一哉 「たとえこの通潤橋が落ちたとしても、すぐに造り直すことのできる石工集団を養成する」 第1期肥後種山石工技術継承講座で初の野外研修の際、私の大おおぼら法螺を前にした受講者は、神妙かつ不審な笑みを浮かべつつも目は鋭く光っていた。1800年代半ばに霊台橋(美里町)や通潤橋(山都町)を造った種山石工集団にできたことが、現代人にできない訳がない。そして「肥後の石工」として全国に名を馳せた、先人の匠たくみの技を継承するにふさわしい地は、やはり九州の肥後、熊本である。 ここで種山石工技術継承の胎動に居合わせられることは、私の人生において望外の喜びである。 この講座を主催する「日本の石橋を守る会」の目的は、「日本の石橋およびその文化の価値を大切にし、守ること」である。多様な思いを胸に活動する会員たちの中で、技術系会員の私たちが「どのように守る」のかは自明だった。「傷ついた石橋を修理復元して活用する」、「新しい石橋を架けるための仕組みをつくる」。このことにより、石橋たちを消失から守るのである。 目指していることは単なる石橋の修理にとどまらず、現存する石橋と同じ構造の石橋を併設する工法で幅員を2車線以上に広げ、自動車の往来を可能にすることも含まれる。石橋併設により現在、骨こっとうひん董品扱いの全国の石橋が新しい橋として蘇よみがえれば、道路橋への建設投資の抑制につながる。日本の古き佳よ き風景が、そこここに蘇っていくことにつながるだろう。 古代文明に残された社会資本の痕跡は、例外なく石造構造物である。石橋を人力で組み上げる匠の技は、人類にとって普遍的かつ重要な土木技術文化なのである。鉄筋コンクリート橋の時代が現在まで100年続いているが、世界には2,000年を超えて生き残っている石橋が立派に存在している。鉄筋コンクリート橋は60年程度で産業廃棄物となり、架け替えが必要になる。そのように勿もったい体ないことが、そう長く続けられるとは思えない。 いま、日本には石橋の設計法がない。また長い間、土木工事でコンクリート全盛の時代が続いたため、石橋を架ける技術を持った石工技能者がいなくなってしまった。「事を成すに時がある」というが、2011年、奇跡とでも言うべく、石橋の甦そせい生に向け、人の心が一点に集中した。山都町教育委員会の西慶喜氏(学芸員)から、文化庁の助成制度活用のアドバイスをもらい、10年来、種山石工技術継承者の竹部光春師匠と温めていた計画を整備し、助成金交付申請を行ったところ採択され、本講座が始まった。 日本の石橋を守る会と、熊本大学大学院の山尾敏孝教授率いるKABSE-研究分科会(石橋の設計ガイドラインを用いた設計・施工に関する研究分科会)には、石橋に関する全ての分野で国内トップの研究者が多数所属されており、率先して座学の講師を引き受けていただいた。竹部師匠は、ついにその日がやって来たかと、目を輝かせて技術指導を引き受けていただいた。応募者の中から選ばれた受講者は6人。それ以上になると目が届かないという竹部師匠の強い意向があった。私が思ってもみなかった豪壮な講師